美しい本

『先日、「シナの門」で、日本のデッサンを何枚か買った。
布のような紙の上に印刷されていて、それがウール地のようなやわらかさだ。
芸術として私はこれほど見事で奇想天外で素晴らしく詩的なものを見たことがない。
まるで羽の感触のように繊細で、ほうろうのように絢爛とした色合いだ。
いろいろな姿態と化粧の仕草など、そして顔立ちのいくつか、女たちはまるで夢の
中から出てきたような風情だ。
プリミティヴ派のように魅惑的な素朴な感じでアルブレヒト・デューラーを凌駕する
性格を合わせ持っている。
東洋の何かの香水のように目をあわせる魔術というか、奇跡的な芸術で、自然であり、
一植物群のごとく多種多様、まるで魔法の鏡のように魅惑するのだ。』

 これは1861年6月8日のゴンクール兄弟の日記だ。
どこから読んでも、面白くいつもバッグに入れている本だ。
リアルタイムの19世紀末、驚く世界なんだけど、
とくに当時のフランス人の「浮世絵」に対する評価が、興味深い。
私たち日本人は、明治からぐっと芸術の矛先を西洋に向けてしまったが、
こんな一文を読むと、当時のフランス人の方が当時の日本の芸術にうっとりしていたんだなあ

 私は今、おもに近世と呼ばれる時代の本や浮世絵に関わる仕事をしている。
古本屋さんになるのも夢だったが、まさかこういう形で古い書籍に囲まれた仕事に出会うとは!
ゴンク―ル兄弟のように、今ではお目にかかれない鮮やかな色や繊細な手触りの浮世絵や書物に
うっとりする毎日です。
先週はちりめん本の童話を、BOOKSHOTに取り込んだ。
この「ちりめん」仕上げの紙にわざわざして、日本のおとぎ話を印刷する手の込みように、ため息がでました。
とてもかわいいんだけど、極め過ぎて、酔狂にも思える。
海外向けだったのでしょう。お話は英語でした。

ゴンクールの日記(上) (岩波文庫)

ゴンクールの日記(上) (岩波文庫)

ちりめん本のすべて―明治の欧文挿絵本

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