「春の雪」

三島由紀夫の小説の中で、道を歩いていると滝がうまく流れていないのに気付く。
よく見てみると、滝上の方に犬の死体がひっかかっていた、というのがある。
これは「世の中」について叙述した最もすばらしいものだと思う。
私の作品のほとんどは、こういった感覚に負うところが多い。まったく普通の音で、
ごく当たり前の音楽なんだけれども、どことなく変だというような。とても合理的に思える
ことでもどこか歪んでいる・・・少しヒビ割れた鏡の中に物事を見ているようなものだ。」
(ニューミュージックマガジン1979年2月号より。)
これは1979年のデヴィッド・ボウイのインタヴューの発言。(インタヴュワーは、まだ
学生みたいに若い坂本龍一!)
これを読んだとき、大変感動しました。ボウイも「春の雪」を読んだなって。
そして、このシーンはごくはじめの方に登場する何気ないエピソードなのですが、
絶対三島由紀夫も意識した、「豊饒の海」全体を暗示する、小さなサインに思えるのだ。
そしてボウイは三島由起夫ファンで肖像画も描いていますが、ボウイばしっと見抜いてるなあ。
その前の発言からして「モスガーデン」は、どうやら小説のこのシーンにインスパイアされたようだ。
 何年も前に一気に「豊饒の海」を読んだ。
とにかく文体が華麗。自然のみならず一人一人の心理描写の表現が流麗で美しい。
輪廻転生の荒唐無稽さも、日本の近世史に織り込むことによって(これがまた読みやすく
詳しい)通俗的な関心も沸く。
本多という語り手の他に(裏の証人?)聡子のばあやも印象的。
で、結局は「春の雪」は切ない恋愛小説なのである。